大腸がんはどうやって治療するの?
大腸がんの治療に不安がある……
治療の流れがわかっていないと、イメージができないぶん目の前の検査や治療にも専念しづらいです。
とはいえ、医療のことをイチから調べるのってスゴく大変ですよね……
大腸がんの治療法について知りたいけど、医療の知識がないという人に向けて解説していきます。この記事を読めば、大腸がんの治療の流れがよくわかるので不安感がなくなりますよ!
この記事でわかること
大腸がん治療のステージ分類
大腸がんの治療方針は、がんの悪性度の指標であるステージ分類が大きく影響します。
はじめに、大腸がんのステージ分類について大腸癌取扱い規約に基づいて解説します。
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大腸がんのステージ分類において重要なのは次の3つの要素です。
ステージ分類を決定する3つの要素
大腸がんの壁深達度(T)
どのくらいの深さまで、がんが大腸の壁を進行しているかは、治療法を決めるうえでとても重要です。
大腸の壁は内側から次のような構成になっています。
粘膜>粘膜下層>固有筋層>漿膜下層>漿膜(外膜)
がんが大腸の壁のどこまで到達しているかで、次の図1のように分類されます。
(引用元:国立がん研究センター)
Tis がんが粘膜内にとどまる
T1 がんが粘膜下層までにとどまる
T1a がんが粘膜下層までにとどまり、浸潤距離が1000μm未満である
T1b がんが粘膜下層までにとどまり、浸潤距離が1000μm以上であるT2 がんが固有筋層を越えているが、漿膜下層には達していない
T3 がんが漿膜下層(←ない部位では漿膜)までにとどまる
T4a がんが漿膜に達している
T4b がんが他の臓器にまで達している
大腸癌取扱い規約第9版 p.11より
一般に粘膜下層までのTisとT1までの大腸がんを早期がん、固有筋層以上へ広がったがんは進行がんと呼びます
リンパ節転移の有無(N)
がんの治療を決めるうえで、リンパ節への転移の有無は治療方針を左右するほど重要な要素です。
がん治療におけるリンパの役割は次の2つです。
がん治療におけるリンパの役割
- リンパ球の免疫反応でウィルスや細菌、がん細胞と戦う
- 老廃物やウィルス、細菌、がん細胞を濾過
風邪を引くと扁桃腺が腫れるのは、リンパの反応なんです
リンパは全身の臓器に張り巡らされ、合流したものがリンパ節に流れていきます。
免疫反応を引き起こし、がん細胞は倒されリンパ節で濾過されるという仕組みです。
リンパ節は血流に沿って存在するので、大腸がんの細胞はリンパ節に侵入しやすく転移を引き起こすんです。
腸に近い方リンパ節を並べると次のように構成されます。
大腸<腸間傍リンパ節<中間リンパ節<主リンパ節
リンパ節の転移の有無は、腸に最も近いリンパ節(腸管傍リンパ節)とその次に近いリンパ節(中間リンパ節)が特に重要。
また転移しているリンパ節とその数でステージ分類は代わり、がんの治療方針も左右されます。
リンパ節のステージ分類は次のように決まっています。
大腸癌取扱い規約第9版 p.15より
- NX:リンパ節転移の程度が不明である
- N0:リンパ節転移を認めない
- N1:腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が3個以下
N1a:転移個数が1個
N1b:転移個数が2~3個- N2:腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が4個以上
N2a:転移個数が4~6個
N2b:転移個数が7個以上- N3:主リンパ節に転移を認める。下部直腸癌で主リンパ節および/または側方リンパ節に転移を認める
転移したリンパ節の数が多いほど他の臓器に転移するリスクが高くなります
遠隔転移の有無(M)
がん細胞が他の臓器に転移することを遠隔転移と言います。
がんの遠隔転移には2通りあります。
一つはリンパを介するパターン。もう一つは血流に乗って引き起こされるパターンです。
大腸へ流れた血液は、門脈という静脈で1つになり、肝臓へと流れます。
このため大腸がんは門脈を経由して肝臓に遠隔転移しやすいのです。
また大腸の外側にまでがんが広がり、直接おなかの中にがん細胞がこぼれてしまうと腹膜播種をきたします。
遠隔転移は、次のように区分されます。
大腸癌取扱い規約第9版 p.15より
- M0:遠隔転移を認めない
- M1:遠隔転移を認める
M1a:1臓器に遠隔転移を認める(腹膜転移は除く)
M1b:2臓器以上に遠隔転移を認める(腹膜転移は除く)
M1c:腹膜転移を認める
○M1c1:腹膜転移のみを認める
○M1c2:腹膜転移およびその他の遠隔転移を認める
以上よりTNMの3つの項目をもとにステージ分類すると、図2のようになります。
(引用元:大腸がん取扱い基準第9版)
このステージ分類で治療方針が決まるのでとても重要です
大腸がんの治療法と合併症
ステージ分類ごとの治療法を次の図3のフローチャートに示しました。
それぞれの治療法の特徴と副作用について解説していきます。
内視鏡治療
内視鏡治療では、体内に入れた内視鏡を用いて、がんを取り除きます。
内視鏡で治療を行う最大のメリットは、外科的な手術に比べて体への負担が小さいこと。
検査目的で内視鏡を受けた際でも、小さな大腸がんであればその場で治療することも少なくありません。
大腸の内視鏡治療には次の3つの方法があります。
内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
ポリペクトミーは、スネアという金属の輪をポリープの根本にかけて切り取る手術です。
ポリペクトミーで切除できるのは、金属の輪をかけられるキノコ型のくびれがあるポリープに限られます。
腸の粘膜には痛覚がないので、痛みもなく安心です!
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
EMRはがん病変よりも深い位置の粘膜下層に生理食塩水を注入し、がんを浮き上がらせてポリペクトミーと同様にスネアで切り取る手術です。
ポリペクトミーで手術ができない、くびれのない大腸がんがEMRの対象です。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
ポリペクトミーやEMRは、スネアという金属の輪の大きさまでしか切除できず、大きなサイズの大腸がんでは厳しいのがデメリットです。
このような大きな大腸がんではESDという手術が行われます。
ESDではEMR同様に、病変よりも深い位置の粘膜下層に生理食塩水を注入し、あらかじめ付けた目印に沿って、がんを専用のナイフで切り取ります。
以上が主な内視鏡を用いた治療法です。
内視鏡治療は日帰りで行うことができるため、経済的にも負担が小さいですが、出血や穴が開くリスクもあります。
とはいえ外科手術よりは、はるかに体への負担もリスクも小さい治療法です
内視鏡で治療できる大腸がんは次のようなものです。
内視鏡治療が可能な大腸がん
- 粘膜にとどまっている(Tis)
- 粘膜下層にとどまっているがんのうち、浸潤の深さが1000μm以内(T1a)
内視鏡治療が可能な大腸がんは、早期がんに限定されています。
早期がんでも、大腸がんのサイズによっては内視鏡では厳しく、外科的手術になる場合もあります
外科手術にならないようにするためには、何よりもがんを早期発見することが大切。
下の記事で大腸がんの症状と具体的な検査方法について解説しているので確認してみてくださいね。
-
大腸がんの初期症状とは?7つの検査方法とともに解説
外科的治療(手術)
内視鏡治療ができない場合、がんの治療は手術です。
手術で行うのは主に次の3つです。
手術の流れ
- 大腸がんを切除する
- 大腸がんが転移しているリスクの高いリンパ節を摘出
- 切除して残った大腸をつなぎ合わせる
行っていることはシンプルなのですが、直腸と結腸によって手術の仕方は大きく異なるんです
具体的な手術とその内容について解説します。
前方切除術
前方切除術は、直腸の病変部を切除し、結腸と直腸をつなぎ合わせ肛門の機能を温存する手術です。
肛門の機能が残されるので、排便のための永久的な人工肛門(ストーマ)は不要です。
ストーマについて
- 手術で作られた尿や便の出口。人工膀胱、人工肛門。
- 人工膀胱、人工肛門ともに括約筋が存在しないため、自動的に排泄される(意識的に止めることができない)
- 一時的に作る場合(腸管がつながるまで)と永久的に使う場合がある
直腸と結腸をつないだ部分がくっつくまで、一時的にストーマを作ることもあります
ハルトマン手術
前方切除術のうち切除して残った結腸と直腸をつながずに、切除した口側の結腸をストーマにするのがハルトマン手術です。
がんにより腸管が狭まってむくんだり、がんの位置が悪い場合には、上手にくっつかない可能性があるのでハルトマン手術が選ばれます
マイルズ手術
マイルズ手術では、直腸がんとともに肛門も含めて切除し、切除した口側の結腸にストーマを作ります。
肛門まで直腸がんが広がっていたり、肛門を温存したときに高度の術後排便障害が予想されるときにマイルズ手術が行われます。
括約筋間直腸切除術(ISR)
ISRは直腸がんとともに内肛門括約筋を合わせて切除し、外肛門括約筋を残す手術です。
対象となるのは、内肛門括約筋を切除すればがんの切除ができる場合に限られます。
ISRでは縫合不全を防ぐために術後に一時的なストーマを作る必要はありますが、肛門の機能を残すことができます。
結腸の手術 (回盲部切除術 , 結腸右半切除術 , 横行結腸切除術 , 結腸左半切除術 , S状結腸切除術)
結腸の手術では、がんから10cm離れた箇所で結腸を切除し、つなぎ合わせます。
がんを栄養する血管に近いリンパ節もステージ分類に合わせて切除するリンパ節郭清を行います。
ステージ分類別のリンパ節郭清について
そして残った大腸をつなぎ合わせる、というのが結腸の手術です。
結腸と直腸では手術内容が全く違うんですよ!
外科的手術は、直接体内にメスをいれるので、内視鏡に比べると合併症のリスクもさまざまです。
具体的には次のような合併症があります。
大腸がん手術の合併症
- 腸閉塞:手術により腸が動かなくなり便通が悪くなる状態。点滴や胃液や腸液をチューブにより排出して治療
- 縫合不全:腹膜炎になれば再度手術のリスクあり。予防的に一時的なストーマを作る場合もある
- 排尿障害:自律神経の機能低下が原因
- 排便障害:自律神経の機能低下、肛門括約筋の損傷が原因
- 性機能障害:神経を傷つけられた場合に起こる。男性の射精・勃起障害が多い
大腸がんの薬物治療
ステージⅡ以降の再発リスクが高い大腸がんでは、薬物による治療を行います。
薬物療法の目的は2つ。
がん治療の場合と症状の緩和の場合があります。
薬物治療というと抗がん剤を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか?
ですが抗がん剤は化学療法という薬物治療のうちの1つにすぎません。
薬物治療には大きく分けて次の3つの種類があります。
薬物治療の分類
化学療法(細胞障害性抗がん薬)
化学療法はいわゆる抗がん剤のことで、現在は複数の抗がん剤を組み合わせる多剤併用療法が主流。
化学療法では複数回のクールに分けて投薬をします。
初回は3-4週間を1クール、それ以降は4-6サイクルを繰り返します。一般的な治療期間は数ヶ月ほどです。
抗がん剤の種類はさまざまで、薬によって作用の機序が異なります。
そのため化学療法では、効きが悪くなったら別のタイプの抗がん剤に切り替えるのが基本。
ただしどの抗がん剤も細胞にダメージを与えて、ダメージの治りが遅いがん細胞を倒すので正常細胞への影響も避けられません。
抗がん剤による正常細胞へのダメージが治療中に強い副作用につながります
抗がん剤の主な副作用には次のようなものがあります。
抗がん剤の副作用
- 吐き気、嘔吐、食欲不振
- アレルギー反応
- 倦怠感
- 口内炎
- 下痢、便秘
- 脱毛
- 手足のしびれ
- 肌・爪のトラブル
また抗がん剤は点滴するものもあれば内服するものもあります。
中には長時間の点滴を必要とする抗がん剤もあり、治療が決まった段階でラクに投薬できるポートという装置を作る場合もあります。
ポートとは?
・体内に入れたカテーテルと2cmほどのポートという装置をつなぎ、皮下(鎖骨の下側や上腕部)にポートを埋め込む手術を行う
・手術は1時間ほど、局所麻酔で行う
・過度に腕を動かさない限り、日常生活に支障はなし
・抗がん剤以外にも、採血や造影剤検査をすることも可能(※禁止している病院もあり)
点滴のために注射をする必要がなくなりますし、抗がん剤の治療中にも腕を動かせるのでラクになります。
抗がん剤目的の場合、3割負担で5万5000円ほどかかりますが、手間が圧倒的にかからなくなるのでオススメします
内分泌療法(ホルモン療法)
内分泌療法は、ホルモンの分泌を利用して大きくなるがん細胞の成長を阻害します。
乳がんや前立腺がんで行われる治療法であり、大腸がんで利用することはまずありません。
分子標的療法
分子標的療法とは、特定の遺伝子やタンパク質にだけ作用する薬を用いた治療法です。
分子標的療法のメリットは、がんで変異した特徴的な遺伝子だけを攻撃できるため抗がん剤と比べて副作用が出にくいこと。
ただ分子標的薬の攻撃できる遺伝子型ではないと効果がない場合もあるため、万能な薬とは言えないのがデメリットです。
大腸がんの治療は、基本的に抗がん剤と分子標的薬を組み合わせて行っています!
放射線治療
放射線治療は、手術のようにがんを取り除かず放射線をあてて治療します。
正常組織とがん組織で放射線により受けるダメージを修復するスピードが違うことを利用したのが放射線治療です。
放射線治療の目的は、再発予防と症状の緩和の2つの場合があります。
再発予防の場合、はじめに放射線治療を行って病変を小さくします。
放射線治療と同時あるいは治療後に、抗がん剤を使用したのちに手術することも多いです。
大腸がんの放射線治療が行われるのは直腸がんのみ。
直腸のがんに極力限定して放射線を当てますが、正常組織も放射線を浴びるため副作用が現れるのがデメリット。
直腸がんの放射線治療で起きやすい副作用は次のとおりです。
直腸がんの放射線治療の副作用
- 吐き気、嘔吐、食欲不振
- 下痢、肛門の痛み
- 疲労感、倦怠感
- 感染症になりやすくなる(白血球減少)
直接痛みはないですが、治療が続くにつれ正常組織へのダメージも蓄積していきます。
しっかりと休むことがとても大切です
自分のステージ分類に適した治療法を確認しておき、よくある合併症や副作用について確認しておくことをオススメします。
大腸がんの治療にかかる費用
治療方法はわかったけど、正直な話治療費はいくらなんだ……
というのはリアルに気になるところですよね。
現場で働いていると、経済的な理由でがんの治療に悩んでいる人の話をよく聞きます……
そこで大腸がんの治療をする場合にどれくらいの費用がかかるのか解説します。
結論から言うと、高額療養費制度を活用することで支払う医療費はグッと抑えることができます。
70歳以上で年収370-770万円で3割負担のとき、医療費が100万円の場合の自己負担費用は87430円です。
(厚生労働省ホームページ「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)[PDF形式:669KB]」より)
日本人に生まれてホントに良かった……
ちなみにがんの治療でどれくらいの費用がかかるのか、例として内視鏡手術と直腸の外科的手術の診療報酬を下の表にまとめました。(しろぼんねっとより引用)
手術名 |
診療報酬(点数×10円が手術費用) |
内視鏡的大腸ポリープ粘膜切除術(EMR) 長径2cm未満 | 5000点 |
早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術(ESD) | 22040点 |
低位前方切除術 | 71300点 |
腹腔鏡下低位前方切除術 | 83930点 |
これに加えて薬物療法や放射線治療を受けると、金額はどんどん積みあがります……高額療養費制度は本当に素晴らしい制度ですね!
ただ高額療養費保険の対象外になる部分もあります。
次のような項目は高額療養費保険が使えないので注意が必要です。
高額療養費制度の対象外になるもの
- 先進医療にかかる費用(陽子線治療・重粒子線治療)
- 患者の希望による差額ベッド代
- 入院時の食事代
また高額療養費制度は月ごとの計算なので、自己負担額は月をまたぐと大きく増えることにも注意が必要です。
経済状況を考えて、先生と入院のタイミングを相談するのも良いと思います!
治療で気になったことがあったらすぐに聞こう!
大腸がんは、病気の進行によって大きく治療法が異なります。
そのうえ治療方針が途中で変わることもしばしばあります。
不安感とともに治療への不信感を抱くこともあるかもしれません……
病を治すには体力も使うし、根気もいります。
だから信頼できる関係性を持つことは大切です。
悩んでいたら、一人で抱え込まずにスタッフに気軽に相談してみてくださいね!