仕事

病院に搾取されてるあなたへ。これからの医療従事者が知っておくべき事実。

祝日がくると休みが増えて嬉しいですよね。ゆったりと休めますし、家事や子どものお世話でいっぱいいっぱいになっている普段の生活にもゆとりと息抜きが生まれます。ただ、その分だけ他の平日に業務が増えるのも事実。病院に勤務している医療従事者にとって何よりも恐ろしいのは、13日の金曜日よりも、三連休明けの月曜日なのではないでしょうか。

外来はひっきりなしに患者が来ますし、そのうちの患者の何名かが即日入院になれば外来のあおりを受けて病棟もてんやわんやです。

また、緊急というわけでもなく、突然入院の日程が早まって入院のスケジュールが前倒しになったり、患者の都合を重視すぎるあまり、急ぐわけでもない検査オーダーが乱発されたり…。

何かにつけて急遽仕事が舞い込んで来がちです。

「できる限りのことはしてあげたい…」という患者を想うケアの精神が、個人の良心にかかっている実情があります。ややもすると、ケアという気持ちを利用したやりがい搾取なんじゃないか?

と思わずにはいられない瞬間さえあります。

そこで、今回は病院の経営について日々感じているであろう疑問と、それに関連して病院経営の未来がどう変化していくかについて解説していきます。

医療は儲けて良いのか?問題についての解答

透明でクリーンな、ガバナンスがしっかりと機能している職場であれば毎月、職場の収支情報は、職員が知ることができますよね。今月は○千万の黒字、というように。

年間収支が黒字になると、職場によっては年度末手当が出るところも多いでしょう。実際に、コロナ流行期には手当が出た医療機関もあったようです。ですが、これに対しては批難するような意見も少なくありませんでした。

そこで発生するのが、「医療は儲けても良いのか?」問題。

この問題には解答があります。重要なヒントになるのが「社会的共通資本」という考え方です。

これは、現代経済学の宇沢弘文氏による考え方で、医療がどのような位置づけにあるのか考えるうえで、非常に重要なんです。

「社会的共通資本」は次のようにして説明することができます。

制度主義は、資本主義と社会主義を超えて、すべての人々の人間的尊厳が守られ、魂の自立が保たれ、市民的権利が最大限に享受できるような経済体制を実現しようとするものである。(中略)
社会的共通資本は、この制度主義の考え方を具体的なかたちで表現したもので、二十一世紀を象徴するものであるといってもよい。

社会的共通資本は私的資本とは異なって、個々の経済主体によって私的な観点から管理、運営されるものではなく、社会全体にとって共通の資産として、社会的に管理、運営されるようなものを一般的に総称する。

「医療経済の嘘」p.170-171

医療「社会的共通資本」に該当するものである。というのがまず重要なポイント。

誰もがその恩恵を享受できるようでなければならないのです。医療行為が市場の動きによって左右されれば、満足な治療が受けられない人が出てくる。

もしディズニーのファストパスのように金を払えば優先的に治療をさせてもらえる、なんてことがあれば、そこには平等な市民権はありませんよね。

だから、医療というのは市場原理から切り離されなければいけない。ということです。

加えて、宇沢弘文氏は次のようにも述べています。

医師は純粋な意味で医学的判断にもとづいて指示を与えるということが要請される。病床の使用料、検査料、薬剤費、処置料、手数料などの保険点数ないしは価格にかんする情報によって、医師の判断が影響されてはならないということが重要となってくる。ミルトン・フリードマンの主張するように、医療サービスを市場的な基準にしたがって供給しようとするとき、医師は薬価差益などから構成される利潤を最大にするように、診療行為を選択することが前提となっているが、医師がこのような行動をとるとき、医師としての資格は失われ、患者の信頼もまた完全に喪失してしまって、医療制度そのものも円滑に機能しなくなってしまうであろう。

「医療経済の嘘」p.181-182

実際にいまの病院を思い浮かべてみると、何かにつけてコスト意識に口うるさいですよね。事務は最も安いものばかりを調べ上げて購入しているし、薬価差益を意識することは収益確保の手段として序の口なのではないでしょうか。

市場原理から切り離される手前、医療は医業というビジネスではなくセーフティーネット的存在であるということです。だから、儲けるということは筋違いなのです。

診療報酬を稼ぐことが意味すること

この事実を読んだとき、めっちゃショッキングだったんですよね…

だって、自分がどんなに頑張ったって、それはケアであって数値的なカタチとして現われることを望んではいけないってことなんですよ。

いや、さすがに儲かって良いんじゃないか?と思ったんですよね。実際のところ、医療現場では診療報酬を上げようとしていますし。今年の春闘のタイミングでも日本医師会が賃上げを目的として、診療報酬の改定にその分を考慮して盛り込んでほしい旨を岸田首相に要望していました。(参考文献)

診療報酬が上がると、どうなるか考えたことはありますか?

一部は医療従事者の昇給になるかもしれません。ですが、その大元の財布は国民全体ですよね。つまり血税から支払われるということになります。

3割負担の裏側には、7割の国の税金から払われているわけです。よって診療報酬をしようとすると、医療従事者とそれ以外の全員が対立する構造になるんですよね。

日本の医療費は年々増加傾向にあって、国の財政を圧迫しつつあります。だからこそ診療報酬の上げることに対して、政治は首を縦に振らないんです。

イチ医療従事者として診療報酬が上がって、病院の経営状態が良くなるなら好ましいことですが、これがきっかけに国の経営が悪くなってしまうようでは本末転倒。やはり医療は市場原理に乗っかってはいけないということなのでしょう。

医療は儲けてはいけない。とはいえ、病院が潰れそうな場合に助けてくれるわけではありません。商売においては単価を上げることは基礎中の基礎ですが、医療は市場原理に乗せてはいけないので、単価を上げてもいけない

ではどうすればいいのか?

それがいまの医療が進もうとしている「薄利多売」への道であり、私たちが消耗していることの正体です。

医療と従事者の未来予想図

医療現場が薄利多売へとつながっていた経緯は次のように述べられています。

感染症を克服したりして医療が絶大な信頼を得るようになって病院がいっぱいできた。

その一方で医療費が爆発的に上昇したので国は医療費抑制に乗り出した。

その結果、

○病床数は制限が遅れて、世界最多の病床数となってしまった。

○「薄利多売」の世界観が形成され、外来受診数、CT・MRIなどの医療提供はきっちり増えていった。

○その割には医師数はきっちり制限されたので医師不足。

「医療経済の嘘」p.199-200

患者が来院するたびに検査を行ったり、必要性に乏しい検査を無理矢理ねじ込もうとしていることをよく見かけます。これもまた、患者にとっては検査をしてくれたという安心材料であり本人から喜ばれることは想像に難くありません。逆に言うと、病院は山ほどあるために、患者に嫌がられれば来なくなってしまうリスクもある。つまり、もうすでに病院が選ばれる立場にあって、患者にとっては選び放題の状況にあるということなのでしょう。

今後日本は高齢化がさらに進みます。短期的には高齢者数は増えますが、やがて高齢者の数は減っていきます。当面は、高齢者の数が増えるか、あるいは横ばいのため、安い単価でガツガツ患者数を稼ぐことで成立していくでしょう。ですが患者の総数が減ってしまっては致命傷。近い未来、患者の奪い合いになることは確実です。

その過程で、各病院は患者を取り合うために医療サービスの質の向上をはかる必要があり、経営が厳しくとも設備投資にもお金を掛けなければいけないという展開が間違いなく訪れます。その未来では、うっすらと今感じている搾取感はもっと明らかなカタチとなって私たちの前に立ちはだかるでしょう。

非常に皮肉なことですが、やや自己犠牲を伴う真の献身性がなければとてもやっていられないため、聖人君子しか医療従事者になれない時代が来るのかもしれません。

もうすでに搾取されているかもとあなたが実感しているなら、余裕があるうちに自分の生き方を考えておいた方がいいでしょう。

熱湯に突っ込まれたカエルは熱さに驚いて逃げることができますが、水に浸かった状態で加温されたカエルは、逃げるタイミングを失い最後には死んでしまいます。

違和感に気づいたときに行動を取れるかどうか?ということが重要なのです。

まとめ

自分の未来に目を向けよう!

今回は医療機関の経営と病院の未来について解説しました。

私たちの職業は市場原理から切り離された、儲けてはいけない職業であり、かつ生き残るために薄利多売であり続けなければいけません。

一般企業が単価を上げて収益化を図るようなことはできないんです。だから、薄利多売にならざるを得ない。

診療報酬は定められた額面であるため、それ以上もそれ以下の請求することができません。つまり、日本国内全体に共通する問題なのです。他の職場に行けば待遇が改善されるかもしれないという淡い期待を持ち続けないことが大切。

もし、あなたが私と同じアラサー世代ならこの薄利多売の波から逃れることはできないでしょう。自分の未来と病院の未来がどうなるのか。よく見つめてみてくださいね。

そしたらまた。

☆医療従事者ってコスト意識を持つように求められる機会は多いのに、実際の経営とか医療費という視点で知識を身につける機会ってほとんどありませんよね。この本は私たちが、病院に対してわずかに感じている違和感に対する真実を医師の観点からスルスルと解説してくれます。現役医療従事者の方はぜひ。

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さとし

病院に勤務するアラサー医療従事者。 趣味は旅行と読書(年間150冊)。 新社会人から30代までの一人暮らしをより豊かに、人生をイージーモードに変えるアイデアを紹介します。 おもに本の紹介や仕事や家事の時間術、おすすめのお金の使い方など。